医師の知的財産について初めて書かれたこの『知的財産戦略パーフェクトマニュアル』は医療業界にとって驚異の書である。
医師は今まで自分の使命である医業に専念し、個人的趣味に没頭することはあってもそれ以外のことは疎んじる傾向があった。様々な才があり絵画や詩、スポーツなど自分の趣味をのばすことはあっても医業については学会で発表したり書物に残すのみで完結してしまうことが多い。医業に関する企業は医師の純粋さと関連して様々な製品を生みだしてきている。医師は自分の考案したものがこの世に出ることに喜びを感じることと思うが、企業にほとんどのものを捧げていやしないだろうか。
医師が患者のために自分の時間や体力を捧げるのは当然のことであるが、その結果として生み出された知的財産まで企業に捧げてしまうのは如何なものであろうか。また企業に特許や新製品などの依頼をする上での関係は企業の方が上になってしまい医師は対等の立場にはならなくなってしまう。対等の立場で話を進めていく上でも自分の知的財産は自分で守っていく必要があると考える。これらのことは企業に対抗するということではなく企業に問題提起を出来る立場になれるということである。最終的には企業との交渉が円滑に進み、よりよい製品の開発へとつながる。
私と著者である森本尚樹君との関係は、イレウスチューブの開発を、ある医療機器メーカーに依頼したときに始まる。当時、同社のマーケティング部長であった森本君は私に「まず先生が知的財産をご自分で保護なさってからお話を伺いたいと思います。」と話してくれた。そのやさしい配慮からイレウスチューブの先導子バルーンタイプがこの世に出る機会を得た。まさに森本君のおかげでイレウスチューブを作成することが出来たわけである。
その後森本君は同社を退社、エルブレーントラストを設立し、知的財産を蓄えている多くの医師のために様々な企画を検討していると聞いた。『知的財産戦略パーフェクトマニュアル』はその中核をなすものと思われる。医事監修を依頼され本書の分厚さと森本君の知識の豊富さに驚かされた。厚さの割に必要な部分だけ読めば良いように構成されている。随所に配置されているセルフ・コンサルティングチェックシートは自分で特許を出願し企業と交渉を始める上で非常に役に立つものである。森本君の細かい配慮が滲み出ているこの書を中堅医師に是非一読いただき、自分の中で眠っている創造物を現実のものにする機会につながれば至福の喜びである。
岩見沢市立総合病院
外科 上泉 洋